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砂地には熱い風が吹いていた。日は高く、空も青く澄んでおり、砂嵐の予兆は見えない。その中を、2頭の馬とそれに乗った1人の男、そして少数の羊の群れが進んでいく。
男は山地に住む遊牧民の夫婦の養子だった。名をキリルと言う。女の子しかいなかった夫婦に、5つの時に都市の市場で買われた。それ以来、血のつながりはないが、本当の家族と同じように暮している。愛情深い人々なのだ。
今は羊を売って妹の結婚式の道具を揃えるために、以前自分が売られていた市場に向かっている。家族単位で移動する民族にとって、若い男は重要な働き手だった。
キリルは手をひさしのように目の上に掲げ、地平線の先を眺めた。かすかに見える黒い影はタマリクスの木だろうか。だとしたら、馬と羊を休ませてやれる。この辺りには彼らの栄養源である青草はまばらにしか生えていないし、朝から歩かせ続けたので、だいぶ疲れているはずだった。
タマリクスは乾燥に強い。降水量が少ないこの地でも、深く根を張り地下水を吸って育つ。この針葉樹の下には水脈が通っていることが約束されているため、近くに井戸が掘られることも多かった。水を与えれば少しは羊たちの疲れも癒える。
キリルはねぎらいを込めて栗毛の馬の首を叩いた。馬がそれに応えるように身震いをしたので、振り落とされないよう、両足に力を入れてバランスをとらなければいけなかった。
羊に声をかけながら歩いていくと、黒く塗りつぶされた影がはっきりとした木の形になっていった。小規模な群生地だが、木陰が広がっているので涼めそうだ。
馬から降りて手綱を枝に結び付けようとした時、木の根元に青白い手があることに気付いた。足早に裏に回ると、苦しげに眉根を寄せた男が木にもたれて気を失っている。呼吸が浅い。額に触れ、その冷たさに驚いた。男の首に2本の指を当てて脈を測れば、血液を送り出す力は異常に弱く早い。危険な状態であることは明白だった。
「おい、目を覚ませ」
キリルが男の頬を叩くと、男はむずがるようにその手を払おうとした。意識はまだある。
「自分の名がわかるか? 言ってみろ」
男は答えなかった。キリルは先ほどより強く男の頬を張った。
「名前を言え」
男が顔をゆがめ、小さく口を開く。キリルはその唇に耳を寄せて、男の言葉を聞き取ろうとした。
「……アーリャ」
弱々しい声だったが、こちらの呼びかけは理解していた。命を落とすことがなければいいが、とキリルは唇を噛んだ。あまり感情を表に出さない彼が焦っている時に見せる、数少ない癖だった。
「よしアーリャ、水を飲め」
腰に下げていた水筒の蓋を開けて男の口に運んだが、注いだ水は唇の端を流れ落ちていった。自力で嚥下することができないのだ。キリルは水筒を呷り、ぬるんだ水を口に含んだ。強引に顎をつかんで男の唇を開かせ、口移しで水を与える。そのまま右手で口を塞ぎ、左手で顎を上に向かせた。
「飲み込め。ゆっくりでいい」
キリルが言い聞かせると、男の喉が上下し、音が鳴った。何度か同じことを繰り返し、水筒の中身を飲ませきった。井戸から水を汲もうと立ち上がりかけたら、男が息だけの声で、もういいと言った。
キリルは胸元から白い結晶を取り出した。洞窟から切り崩した岩塩だ。大量に汗をかいた場合、水分と共に塩分も失われるので、砂地を歩くのにはかかせないものだった。再びおとがいをつかんで、岩塩を男の口の中に捩じ込んだ。男が首を振ったが、キリルは離さなかった。舐めるんだ、と男の耳のそばで言うと、男は抵抗を止め、赤い舌を差し出して塩を舐めとった。
荷を下に置いて足を高くし、冷たい水を浸した布で体を冷やす。古くから受け継がれてきた治療を行い、手を尽くした。あとは本人次第だ。再び男の脈を測ると、ずいぶん落ち着いてきていた。
「じきに良くなる。今は寝ていろ」
男は目を閉じたまま頷いた。
羊たちは日の光を避けて木陰に座り込んでいた。豊かな体毛のおかげで山地の寒さには強いが、こうして山から下ってくると、砂地の熱が彼らをひどく苦しめた。この羊は売りものだから、死なせるわけにはいかない。
井戸から水を汲み上げ、バケツに移す。岩塩を砕いて溶かしてから地面に置いた。5頭の羊は競い合って水を飲んだ。キリルは空になったバケツにもう一度水を汲み、羊たちにかけてやった。彼らは互いの体を舐めあった。そうすることで少しでも水分を取ろうとするらしかった。
馬にも水を与えた。飲みやすいようにバケツを胸の高さに持っていると、キリルの顔にまで飛沫が飛んできた。栗毛の馬はかなり喉が渇いていたようだった。キリルは筋肉質の立派な体を持つ男だったから、その分彼を運ぶ馬にかかる負担も大きい。荷を背負ってきた白馬は、栗毛の馬が満足するまでおとなしく自分の番を待っていた。
この暑さだ、自由にさせても木陰の外には出ないだろう。キリルはそう判断し、しばらく家畜を放すことにした。都市まではあと2・3日はかかる。自分にとっても彼らにとっても、体力を蓄えることが必要だった。
眠っている男のもとへ戻り、その隣に座った。荷から取り出した扇子で風を送ってやると、男のうねった金色の髪が揺れた。顔色はずいぶん良くなっていた。
介抱していた時は慌しく、気に留めなかったが、この男は土地の者ではない。肌が白く透き通っているし、言葉にも異国の訛りがあった。まばらに散ったそばかすが幼さを感じさせる。寝顔を見ている限りではまだ10代にも思えた。
男はアーリャと名乗った。略称から考えれば、おそらく本来の名はアレクサンドルだろう。守護者を意味する名前だが、今は逆に他人に助けられている。馬もなしに生身でこの砂地を渡ろうとしたのならば、倒れるのも無理はない。この無力な旅人が一体どこから来たのか、キリルは疑問に思った。
男は山地に住む遊牧民の夫婦の養子だった。名をキリルと言う。女の子しかいなかった夫婦に、5つの時に都市の市場で買われた。それ以来、血のつながりはないが、本当の家族と同じように暮している。愛情深い人々なのだ。
今は羊を売って妹の結婚式の道具を揃えるために、以前自分が売られていた市場に向かっている。家族単位で移動する民族にとって、若い男は重要な働き手だった。
キリルは手をひさしのように目の上に掲げ、地平線の先を眺めた。かすかに見える黒い影はタマリクスの木だろうか。だとしたら、馬と羊を休ませてやれる。この辺りには彼らの栄養源である青草はまばらにしか生えていないし、朝から歩かせ続けたので、だいぶ疲れているはずだった。
タマリクスは乾燥に強い。降水量が少ないこの地でも、深く根を張り地下水を吸って育つ。この針葉樹の下には水脈が通っていることが約束されているため、近くに井戸が掘られることも多かった。水を与えれば少しは羊たちの疲れも癒える。
キリルはねぎらいを込めて栗毛の馬の首を叩いた。馬がそれに応えるように身震いをしたので、振り落とされないよう、両足に力を入れてバランスをとらなければいけなかった。
羊に声をかけながら歩いていくと、黒く塗りつぶされた影がはっきりとした木の形になっていった。小規模な群生地だが、木陰が広がっているので涼めそうだ。
馬から降りて手綱を枝に結び付けようとした時、木の根元に青白い手があることに気付いた。足早に裏に回ると、苦しげに眉根を寄せた男が木にもたれて気を失っている。呼吸が浅い。額に触れ、その冷たさに驚いた。男の首に2本の指を当てて脈を測れば、血液を送り出す力は異常に弱く早い。危険な状態であることは明白だった。
「おい、目を覚ませ」
キリルが男の頬を叩くと、男はむずがるようにその手を払おうとした。意識はまだある。
「自分の名がわかるか? 言ってみろ」
男は答えなかった。キリルは先ほどより強く男の頬を張った。
「名前を言え」
男が顔をゆがめ、小さく口を開く。キリルはその唇に耳を寄せて、男の言葉を聞き取ろうとした。
「……アーリャ」
弱々しい声だったが、こちらの呼びかけは理解していた。命を落とすことがなければいいが、とキリルは唇を噛んだ。あまり感情を表に出さない彼が焦っている時に見せる、数少ない癖だった。
「よしアーリャ、水を飲め」
腰に下げていた水筒の蓋を開けて男の口に運んだが、注いだ水は唇の端を流れ落ちていった。自力で嚥下することができないのだ。キリルは水筒を呷り、ぬるんだ水を口に含んだ。強引に顎をつかんで男の唇を開かせ、口移しで水を与える。そのまま右手で口を塞ぎ、左手で顎を上に向かせた。
「飲み込め。ゆっくりでいい」
キリルが言い聞かせると、男の喉が上下し、音が鳴った。何度か同じことを繰り返し、水筒の中身を飲ませきった。井戸から水を汲もうと立ち上がりかけたら、男が息だけの声で、もういいと言った。
キリルは胸元から白い結晶を取り出した。洞窟から切り崩した岩塩だ。大量に汗をかいた場合、水分と共に塩分も失われるので、砂地を歩くのにはかかせないものだった。再びおとがいをつかんで、岩塩を男の口の中に捩じ込んだ。男が首を振ったが、キリルは離さなかった。舐めるんだ、と男の耳のそばで言うと、男は抵抗を止め、赤い舌を差し出して塩を舐めとった。
荷を下に置いて足を高くし、冷たい水を浸した布で体を冷やす。古くから受け継がれてきた治療を行い、手を尽くした。あとは本人次第だ。再び男の脈を測ると、ずいぶん落ち着いてきていた。
「じきに良くなる。今は寝ていろ」
男は目を閉じたまま頷いた。
羊たちは日の光を避けて木陰に座り込んでいた。豊かな体毛のおかげで山地の寒さには強いが、こうして山から下ってくると、砂地の熱が彼らをひどく苦しめた。この羊は売りものだから、死なせるわけにはいかない。
井戸から水を汲み上げ、バケツに移す。岩塩を砕いて溶かしてから地面に置いた。5頭の羊は競い合って水を飲んだ。キリルは空になったバケツにもう一度水を汲み、羊たちにかけてやった。彼らは互いの体を舐めあった。そうすることで少しでも水分を取ろうとするらしかった。
馬にも水を与えた。飲みやすいようにバケツを胸の高さに持っていると、キリルの顔にまで飛沫が飛んできた。栗毛の馬はかなり喉が渇いていたようだった。キリルは筋肉質の立派な体を持つ男だったから、その分彼を運ぶ馬にかかる負担も大きい。荷を背負ってきた白馬は、栗毛の馬が満足するまでおとなしく自分の番を待っていた。
この暑さだ、自由にさせても木陰の外には出ないだろう。キリルはそう判断し、しばらく家畜を放すことにした。都市まではあと2・3日はかかる。自分にとっても彼らにとっても、体力を蓄えることが必要だった。
眠っている男のもとへ戻り、その隣に座った。荷から取り出した扇子で風を送ってやると、男のうねった金色の髪が揺れた。顔色はずいぶん良くなっていた。
介抱していた時は慌しく、気に留めなかったが、この男は土地の者ではない。肌が白く透き通っているし、言葉にも異国の訛りがあった。まばらに散ったそばかすが幼さを感じさせる。寝顔を見ている限りではまだ10代にも思えた。
男はアーリャと名乗った。略称から考えれば、おそらく本来の名はアレクサンドルだろう。守護者を意味する名前だが、今は逆に他人に助けられている。馬もなしに生身でこの砂地を渡ろうとしたのならば、倒れるのも無理はない。この無力な旅人が一体どこから来たのか、キリルは疑問に思った。
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あいつら雰囲気変わったと思わねぇか
誰のことですか
バベルとカフカ
そうですか?
ありゃたぶんやったな
それ本人達に聞かれたら裁判沙汰ですよ
カフカが証言台でぺらぺら喋りだすってわけか? そんな奇跡が起こったらしゃぶってやるよ
あんた本当に下世話だなぁ
上司は下世話なくらいがちょうど良いんだよ、上に行くなら覚えとけ
俺は下でこき使われる方が性にあってますよ
かってやってんだから素直に偉くなれよ
止めましょう、もうその話は何回もしたじゃないですか
お前がバベルくらい物分かりの良いやつだったらよかったのに
だからバベルを推薦すれば良いんですよ
いやお前が先だ。俺の星にはまだ年功序列という悪しき習慣が残ってる
副船長
いいか、俺はお前に命令はしたくない。この意味がわかるな?
ついに脅迫ですか
馬鹿言うな、未来の宇宙を憂うアレクサンドル・アリョーシャ・副船長からのお願いだ
誰のことですか
バベルとカフカ
そうですか?
ありゃたぶんやったな
それ本人達に聞かれたら裁判沙汰ですよ
カフカが証言台でぺらぺら喋りだすってわけか? そんな奇跡が起こったらしゃぶってやるよ
あんた本当に下世話だなぁ
上司は下世話なくらいがちょうど良いんだよ、上に行くなら覚えとけ
俺は下でこき使われる方が性にあってますよ
かってやってんだから素直に偉くなれよ
止めましょう、もうその話は何回もしたじゃないですか
お前がバベルくらい物分かりの良いやつだったらよかったのに
だからバベルを推薦すれば良いんですよ
いやお前が先だ。俺の星にはまだ年功序列という悪しき習慣が残ってる
副船長
いいか、俺はお前に命令はしたくない。この意味がわかるな?
ついに脅迫ですか
馬鹿言うな、未来の宇宙を憂うアレクサンドル・アリョーシャ・副船長からのお願いだ